小林潔司 経営管理管理大学院 平成22~23年度院長メッセージ(現 経営管理管理大学院教授)
「文理融合型ビジネススクールの発展をめざして」


 京都大学経営管理大学院は、マネジメントに関する高度な専門的かつ実践的な能力を有するプロフェショナルを育成することを目的とした文理融合型ビジネススクールである。これまで10年間にわたり、社会人に広く門戸を広げ、多種多様なバックグラウンドを持つ学生を受け入れてきた。経営管理大学院を修了すると、MBA(Master of Business Administration)という学位が与えられる。MBAはビジネス経営修士であるが、欧米ではビジネス分野での経営または管理の能力をもっていることの証明として定着している。日本ではビジネススクールの歴史も浅く、MBAという学位が定着しているわけではないが、これから重要になってくる学位であると考える。

 周知のように、大学という制度は、中世ヨーロッパで誕生した。ボローニャ大学を嚆矢とする中世の大学は、教師と学生による共同組合(Universitas societas magistrorum discipulorumque) であり、神学、法学、医学という3職業に携わる学問的専門職(learned professionals)を養成することを目的とした。専門職とは「文化的・観念的な学問的基盤に支えられ、自由で機知に富んだ妨害されることのない知性」を意味する。ボローニャ大学は豊饒な学問的専門職の母 (Alma mater studiorum:motherhood for flourished learning professionals) と称えられた。実務における実践の世界は、必ずしも専門職を必要とするわけではない。しかし、人類が蓄積した知性と教養は、実務における実践を通じて、はじめて人々の役に立つ。ここから、実務における実践の世界と知性・教養の世界との関わりあいのあり方を探求することが必要となり、双方の架け橋を担う学問的専門職の役割が必要となった。学問的専門職は、実社会とのかかわりを持ち続ける宿命を持つ。それと同時に、実社会から自由であり続ける必要がある。このような互いに背反する目的を同時に達成することは容易ではないが、そのためには、現実社会からの要求に対して、常に基礎的な学問基盤に基づいた知的対決を行っていかなければならない。それが専門職大学院としての経営管理大学院の使命であると考える。

 19世紀に、Humboldtにより「研究大学」という新しい大学モデルが提唱され、ベルリン大学が創設された。米国でも、研究大学としてJohns Hopkins大学が設立された。以来、形式知に基づいた科学的・客観的な知識(know-why)の体系化という学問観が支配的になる。大学や学会に代表される学術研究機関は、基礎研究や応用研究を偏重し、実践的な能力やプロフェッショナルのわざ(artistry)を無視するという特殊な考え方に支配された。一方で、実務の世界では「自分が知っていることは、とても言葉に表現できるものではない」という職人肌的な考え方が支配し、大学と実務家、研究と実践、思想と行為との間に埋めがたい溝が広がった。その結果、経営学、経済学や工学は実社会と密接に関わる実学でありながら、学問の成果を実社会に生かしていく実践を研究対象としてとりあげない、という奇妙な事態が常態化した。このことは非常に不幸なことである。

 一般に、大学が扱う専門的知識はknow-whyの体系である。専門的知識は、専門分野に固有の知識であり、実践の世界とは距離をおきながら理論として体系化される。しかし、know-whyの知識だけでは、学問の成果を現実世界に応用することはできない。個々の知識をつなぎ合わせるknow-howの知識が必要となる。Know-howの知識は文脈に依存した知識であり、数式や理論モデルを用いて表現することが難しい。このため、欧米のビジネススクールでは、ケースワークやワークショップの実施を通じて、know-howの知識を修得するために徹底的なトレーニングを実施する。一方、日本社会は複雑なシステムの構成要素をうまく組み合わせながら部分を全体へとまとめあげるknow-howの知識に支えられてきた。Know-whyの知識を基礎としながらknow-howの知識に基づいて、システムの組み合わせを変えていくという日本企業のファインチューニングの実践原理が行き詰まりを見せていることも事実である。いま、日本のビジネスリーダとして育成すべき人材は何よりも新しい独自のコンセプトを創造する意思と力のある人材である。新しいコンセプトを創造するためにはknow-whatの知識が必要である。know-whatの知識が進化しない限り、新しいコンセプトは生まれない。

 京都大学は自由の学風と基礎研究を重視する長い伝統を持っている。京都大学は、基礎的知識はもとより、最新の基礎及び応用的知識を効率よく学ぶことができる広範で質の高い教育プログラムを提供し、名実ともに世界の先端的な高等教育拠点として発展していく使命を持つ。そのためには、社会のニーズが大学院教育に反映されることが必要である。実学分野の大学院には、学生にknow-whyを修得させるだけでなく、研究成果の実際的な意味(know-what)を考える機会を与えるという実践教育を実施することが求められる。経営管理大学院は、ビジネス社会のニーズに対して、大学の学問的基盤が知的対決を行う場であり、大学の教育研究リソースの価値がビジネス社会で直接評価される場でもある。経営管理大学院が、ビジネス経営や管理を勉強したいという学生諸君に、多様な勉学の機会を提供するとともに、教員自身が社会のニーズに合わせた新しい研究領域を発掘し、専門分野を拡大するためのきっかけを獲得できる場として発展することを切に願う次第である。この意味で、大学と実社会の間で、常に緊張感のあるwin-winの関係をこれからも構築していきたいと考える。

 

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平成23.10.12 エンタテイメントビジネスマネジメント講義(講師:中西 禮三氏)


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平成23.12.14 エンタテイメントビジネスマネジメント講義(講師:渡辺 謙氏)
 
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左から、国土・地域ソーシャルキャピタル論(祇園町におけるソーシャルキャピタル)平成21年度、23年度、25年度


 

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