2018.04.01

終了:【科研】強靭な物流を実現するための交通とサプライチェーンの動的スーパーネットワーク解析

研究種目

基盤研究(C) 小区分22050:土木計画学および交通工学関連

期間

2018-04-01 – 2021-03-31

代表者

山田 忠史 教授

キーワード

  • サプライチェーン / 強靱性 / 不確実性 / 最適化 / 多期間モデル / 交通計画・国土計画 / 交通ネットワーク / 強靭化 / 物流

概要

【研究実績の概要】 研究実施計画初年度に相当する平成30年度は、地震などの災害を想定した不確実性下でのサプライチェーンネットワーク(SCN)に注目し、ネットワークの強靱性を定義したうえで、SCNの強靭度を定量化することに注力した。 代表的な物資や商品に着目して、SCN特性、すなわち、SCNの形態と諸量(取引量、輸送量、価格、拠点立地など)や、それらの災害による動的な変化などについて、ヒアリング調査を行った。これらの調査結果に、交通ネットワーク(TN)やSCN関連の文献からの知見を併せて、ネットワークの強靭性を定義するとともに、SCNの強靱度算定方法の基礎的枠組みを提示した。強靭度算定手法の開発においては、頑健性(災害への耐性)、時間的回復性(被災からの回復の早さ)、性能的回復性(被災からの回復の程度)を総合的に加味した。対象期間全体でのSCNの総余剰(各主体の利潤と消費者余剰の和)が強靱性を表すことに言及し、SCNの経時的な状態変化を確率変数として表現することにより、不確実性下におけるSCNの多期間最適化の基礎的な定式化と解法を示した。多期間最適化から得られる最適解は、どの期間において確率変数のどの値が生起したとしても、「総余剰最大の状態からの乖離が最小」、すなわち、「強靱性が最大の状態からの乖離が最小」なSCNである。さらに、上述の調査結果に、既存の交通・物流調査の結果を考慮することにより、計算に必要となるインプットデータを作成した。 多期間最適化に関する試算的な数値計算、すなわち、不確実性がもたらす費用のばらつきによって、強靭度が変動することに注目し、最適化モデルを用いた場合と既存の記述型モデルを用いた場合を比較した結果、本研究において定義した強靭度の観点から、最適化手法の有用性を確認した。 【現在までの達成度 (区分)】 1: 当初の計画以上に進展している  理由: 当初の研究計画において、初年度は、次の4項目に着手することとしていた。(1)企業へのヒアリング調査を基にして、代表的な物資や商品について、SCNの形態と諸量(取引量、輸送量、価格、拠点立地など)や、それらの災害による動的な変化、すなわち、SCN特性を明らかにする。(2)これらの調査結果と、TNやSCNに関連する文献の精査に基づいて、強靱性を定義するとともに、(3) 強靱度算定方法の基礎的枠組みを提示する。(4) 上述の調査結果に、既存の交通・物流調査の結果を考慮することにより、次年度以降の計算に必要となるインプットデータを作成する。 「研究実績の概要」で述べたように、本年度において、上記(1),(2),(4)のいずれも、当初の計画通りに進行している。上記(2)と(3)においては、既存文献の成果も踏まえながら、頑健性、時間的回復性、性能的回復性を総合的に加味した定義と算定方法を提案した。さらに、上記(3)については、当初に予定していた、基礎的な定式化と解法を示しただけでなく、作成したインプットデータを用いて、多期間最適化に関する試算も行い、最適化モデルと既存の記述型モデルを用いた場合の結果を比較して、提案した最適化手法の有用性を確認するに至った。 以上より、研究計画との整合性、および、計画時以上の研究の発展性を考慮すれば、本研究は、当初の計画以上に進展しているものと判断できる。 【今後の研究の推進方策】 研究実施計画二年目に相当する令和元年は、強靱度指標の精緻化をはじめとして、初年度に開発した強靭度算定手法の拡張を図るとともに、TNとの相互作用を考慮した動的なスーパーネットワーク解析手法の開発を試みる。ネットワーク上での製造業者、卸売業者、小売業者、消費者、物流業者などの行動を動的に記述し、災害に対するTNやSCNの状態遷移の不確実性を、動的かつ確率的に考慮して、TNやSCNの諸量を導出し、それら諸量を基にして、より精緻に強靭度を算定する。さらに、精緻化された強靱度を基にして、初年度に構築した多期間最適化モデルを拡張する。モデルを用いて、実際あるいは仮想のネットワークを対象に数値解析を行うことにより、SCNなどのネットワークの強靱性を評価する。 強靭度算定手法の拡張や動的なスーパーネットワーク解析手法の開発においては、前年度の調査結果や、数理計画、ネットワーク最適化、サプライチェーンに関する既往研究を参照する。また、開発・拡張した手法から得られる結果と、現実との整合性を確保するためには、あるいは、強靱性や強靱度の現実的な評価のためには、インプットデータや、比較対象となる実現値データの精度向上が必要である。そのために、既存の調査結果や関連文献の精査、ならびに、国内外の企業や関連研究者に対するヒアリング調査を継続的に実施する。 令和元年度には、ネットワークの強靱性を内包したネットワークの最適設計モデルの基礎的設計にも着手する。このモデルは、大規模な組み合わせ最適化問題に帰着し、厳密解の求解が困難であるので、文献調査などを基にして、メタヒューリスティクスなどの有力な最適化手法の適用についても検討する。