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2015.10.14

H27.09.24 シンポジウム「おもてなしは必要か? ~ 観光業の場合」を開催しました

9月24日(木)、京都大学 吉田キャンパス 法経第7教室にて、シンポジウム「おもてなしは必要か?~観光業の場合」(主催:KBS創研、後援:京都大学経営管理大学院)を開催しました。

シンポジウムは二部構成で行われ、まずはじめに桐山秀樹氏による基調講演が行われました。続いてパネリスト5名によるパネルディスカッションが行われたのち、パネリストと聴講者の質疑応答が活発に行われました。
当日の聴講者は約60名(学生と一般がほぼ半々)で、盛会のうちに終了しました。

20150924 reportシンポジウムの様子

基調講演の概略は以下のとおりです。

桐山 秀樹 氏 ノンフィクション作家  「じつは『おもてなし』がなっていない日本のホテル」著者
 ここ数年、訪日観光客数が飛躍的に伸びている事実とは裏腹に、内実は「観光後進国日本」です。観光をビジネスとしてとらえ、学問として体系化し、実践する、すなわち科学的サービスが必要です。一方では、「おもてなし」が文化的なものであるとしても、これでお金をいただくことができたらベストです。これらを京都でこそ推進できる可能性があります。

 

パネリストのトークの概略は以下のとおりです。

窪山 哲雄 氏 株式会社ザ・パーク グレイス・ホテルズ 社長
      おもてなし(O) = ホスピタリティ(H) + サービス(S)
 このうちHは顧客に合わせて変幻自在であるべきで、ゆえに経済的不合理となりえます。これは「研究開発」でいうなら「研究」に相当します。この研究成果を「量産」化するためにはマニュアル化が必要となります。比喩的に言えば、個人プレーによる液体のような柔軟なものから、スタンダード化された固体のようなしっかりしたものへ。

姜 聖淑  氏  帝塚山大学経営学部准教授
 日本旅館での宿泊のハイライトは女将による夕食時の挨拶です。そこでの女将の気づきが、仲居を通じて全体にルーティン化されます。ここでの課題として次のようなものが挙げられます。このシステムは24時間・365日稼働すべきものか? 顧客のリテラシー(理解度)の差にはどう対応するのか? 日本特有のサービス表現なのか? あるいは、日本特有のサービス設計なのか?

橋本 憲一 氏 料亭 梁山泊
「おもてなし」だけが独り歩きすることへの危惧。有償であるべきサービスを、「おもてなし」としてなかば強要される理不尽。「心の栄養」「心の充足」は、対価(経済的なものだけではなく、精神性のやり取りを含めて)を支払ってこそ得られるものではないでしょうか。

小泉 壽宏 氏 株式会社KBS創研 代表取締役
 旅行業者にしぼって考え、その状況を2つの軸で分類することを提案します。ひとつは顧客の旅行経験が豊富であるか乏しいかの軸です。もうひとつは旅行情報の入手が難しいか易しいかの軸です。そうしてできた4つのセルを分析すれば、どこをターゲットにすべきでどこがそうでない(インターネットに勝てない)かが分類できます。

 

フロアからの質問やコメント、およびパネリストとの質疑応答の様子は以下のとおりです(代表的なものを抜粋)。

●フロアからのコメントの例
「おもてなしがビジネスか文化かというのは一見おもしろい問いだが、定義が曖昧になるかもしれない」
「サービスやおもてなしというのは言葉ではなくて人間の内面から出てくるものなので、人間をどう磨くかという教育が大切」
「京都が国際観光都市になるためには京都市民はもっと熱意をもって勉強をしなくてはいけない」
「生涯学べるしっかりとした学問体系の構築を希望する」

●パネリストのコメントの例
「たったひとりのお客様を満足させるために渾身の力を傾けることがあって、そのときの目的はお金ではなくこの仕事をやっていて良かったと自らが満足できることにある。それが全体のレベルアップに繋がってビジネスにも生きてくる。理想のない商売には誰も見向きをしてくれないし、その人の生き方がにじみ出て人が集まってくる」

全体を総括するならば、「おもてなし」という言葉で思考停止することなく、立場や目的や相手を分類・分析し、さらにそれに応じたそれぞれの実践が求められるのではないでしょうか。