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2016.10.20

H28.10.20 経営管理大学院開設10周年記念スペシャルページ「久保田善明 元経営管理管理大学院 准教授 メッセージ」

久保田善明 元経営管理管理大学院 准教授メッセージ(現 富山大学大学院理工学研究部 教授)

「経営管理大学院の想い出」

20161022kubota この度は、京都大学経営管理大学院創立10周年、誠におめでとうございます。これも関係の教員の皆さま、事務スタッフの皆さま、協力いただいている企業や行政の皆さま、そして何より、京都大学経営管理大学院で学ぶことを決意され、高い志で日々切磋琢磨しながら勉強されている現役学生の皆さま、そして巣立っていかれたOB・OGの皆さま全員の努力と熱意の賜物であると改めて感じます。この10年の歩みの中に、私も僅かながら関わらせていただきましたことを大変光栄に思います。

 さて、私は、2009年4月から2013年3月までの4年間、経営管理大学院で専任教員を務めさせていただきました。その後、それまで併任していた工学研究科に所属が移ってからも、ワークショップを1年間、授業を2年間継続しましたので、トータルで6年間、経営管理大学院に直接的に関わったことになります。経営管理大学院の歴史でいうと、4年目から9年目の6年間ということになります。

 経営管理大学院の想い出は、教育、研究、運営、そして多くの方々との交流と、書ききれないほど多くありますが、やはり特別な想い出として残っているのは、学生たちとの一番の接点である授業やワークショップです。授業では「デザイン経営論」という科目を主に担当していましたが、これは「デザイン」を経営活動の文脈でどのように理解し、活用していけばよいかということを、マネジメントの問題として考えることをテーマとしたものです。体系的な教科書があるわけではなく、しかも私自身、経営学の学生にものを教える経験が初めてだったことから、最初は試行錯誤の繰り返しでしたが、次第に何を教えるべきかがはっきりと分かるようになりました。M1の後期に履修する学生が多かったので、前期で学ぶ基礎科目の特に経営戦略やマーケティング、組織行動との接続性を意識し、それら基礎科目の理解の上に「デザイン」を関連づけて学ぶことができるように内容を組み立てました。また、近年、多くの企業や組織で取り入れられている「デザイン思考」を授業の中で経験、修得できるようにし、さらにケースを用いたディスカッションも行いました。いつのまにか、この「デザイン経営論」は、私が工学研究科や工学部、他大学の非常勤で教えていたすべての授業の中で、最も思い入れの強い、教えることが楽しい、しかし毎回が戦場に出向くような緊張感のある、そんな授業になっていました。そのような心持ちで授業に臨むことができたのも、授業に対する学生たちの積極的な姿勢があったからだと思います。そして、この授業で2012年度のベストティーチャー賞をいただいたことは、私にとって大きな励みになりました。

 ワークショップは、サービス価値創造、プロジェクト・オペレーションズマネジメント、国際コースの3つを担当しましたが、できるだけ学生たちの希望に沿うようにテーマを設定していたため、実にバラエティーに富んだテーマを扱うことになり、こちらも随分勉強になりました。扱ったテーマは、ゲストハウスビジネスを通じた京町家保存(2011)、まちの特性に応じたシティプロモーション(2011)、伝統産業におけるデザインマネジメントの現代的取り組み(2011)、イノベーションを引き起こす企業活動の内部プロセスモデル(2012)、コンシューマーゲーム市場の現状分析と戦略提案(2012)、顧客経験に着目したグローバルブランドマネジメント(2012)、上海ディズニーランドの顧客ニーズと満足度(2012)、ソーシャルビジネスのためのコミュニケーションデザイン(2013)、公共交通サービスレベルの改善検討(2013)、着地型観光のサービスモデル(2013)、中国におけるウォルマートの現地化プロセス(2013)、ワークショップにおける組織デザイン(2013)などです。毎回のディスカッションは非常に刺激的で有意義なものでした。これらワークショップの成果には、国際学会論文やビジネスケース、そして書籍になったものもありますし、学生の卒業後の実践活動に結びついているものもあります。

 経営管理大学院での経験は、『教育の方法』を考えるよい機会にもなりました。大学教育といっても、学部教養教育、学部専門教育、大学院(研究科)教育、専門職大学院教育と、それぞれにレベルや目指すものが異なるので、本来、それらに応じて“教育の方法”も異なるのだと思います。裏を返せば、学生にとっての“学びの方法”も異なります。しかし、いずれの場合にも、そこに「学生」と「教員」がいて、自らの考えを深め、そして交換しあうこと、そしてまた考えること、そのような姿勢が前提とされていることが、有効な学びに不可欠だと思います。その前提に立って、レベルや目的に応じた工夫をしていくのがよいのだろうと思います。経営管理大学院には、異なるバックグラウンド、異なる年齢、異なる国籍の学生たちが集い、日々切磋琢磨できる環境があります。そのような環境のなかで、学生たちには、きわめて積極的な学びの姿勢が共有されているように思います。それは何より経営管理大学院の大きな資産であり、強みです。それを今後も大切にしていって欲しいと思います。

 ところで、今年10月より、富山大学に赴任しました。富山大学では、2018年4月の開校を目指して「都市デザイン学部(仮称)」の設置の検討がなされています。私もその立ち上げメンバーのひとりとして、今後、様々な準備を進めていきます。富山市は先端的なコンパクトシティの実践都市であり、昨年は北陸新幹線も開通するなど、世間の注目も集まっています。新たな企業立地も進みつつあり、観光やグルメの人気も高まっています。ものづくり都市として、質の高いプロダクトデザインでも有名です。そのような未来の可能性に満ちあふれた都市において「都市デザイン学部(仮称)」の設立に関われることに大きなやりがいを感じます。いずれは、経営管理大学院のように、創立10周年を祝う(その頃、経営管理大学院は20周年を迎えています)ことができるようにと思いますが、まずはこれからの時代を見据えた先端的なカリキュラムをもつ魅力的な新学部・新学科をスタートさせることに全力を注いでいきたいと思います。

 最後になりましたが、京都大学経営管理大学院、ならびにご関係の皆さまの益々のご発展を祈念いたします。

 

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